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「あら、こんばんわ。今夜ものれんをかける前から待っていらっしゃるなんて、お客さんも物好きですね......。え?折角の休日と言えど、日がな一日家にいても奥さんにのけ者扱いされるし、かといってどこか出かけるかというとそんな気力はない。そうすると自然と足が向いてしまう、と。もう、しょうがないですね.....。ふふ、それでも嬉しいです。有難うございます。ただいま用意しますね。座って待っていてください。


(間)


はい、まずはビールとお通しです。きんぴらごぼうですよ。シャキシャキのごぼうに甘辛く味を付けた簡単なものですが.....。美味しいですか。よかった....。だからって、お通しだけで飲んでは嫌ですよ?いつも言っているじゃないですか....お通しはあくまで「お通し」だって.....。他のも楽しんでくださいな.....(にっこり)。
さて、今宵の一品は......夏野菜の天ぷらです。しし唐とシソ、新ショウガ、ナス、カボチャ、そして変わり種のトマトです。ふふ、試しに作ってみたんです。お味はいかがですか?.....美味しい?特にトマトが?よかった......(にっこり)お客さんのお眼鏡にかなうならば、メニューとして出してもいいですね.....。
......お客さん、どうしました。そんなに悲しいお顔をされて。そのようなお顔は似合いませんよ。......そうでしたか、奥さんと喧嘩をなさって、家を飛び出してきてしまったのですか。......些細なこと、我慢できたことなのに、と。冷静になった今だからこそわかる事ですね。
しかし、そうご自身を責めないでください。喧嘩をするなんてよくある事ですよ。夫婦なら猶更、そうでしょう?喧嘩をしない夫婦なんていませんよ。みな、大小の喧嘩はしているものです。ですから、そう気落ちなさらないでください。さあ、お酒で流してしまいましょう。私(わたくし)もお付き合いいたしますので。

(間)

あら、もうお帰りですか。......『早く帰らないと、奥さんが心配する』って、まぁっ。それなら一刻も早く帰らないと.....。ふふ、またいらしてくださいね」

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